METHOD

未来洞察とは?

「未来洞察」活動とは、技術開発、企業経営、行政施策などに関する、10~20年ほどの「中距離」な未来について、多様な未来のシナリオを構築し、戦略的な意思決定に資するためのワークショップ活動です。

「未来洞察」手法の歴史

もともとは、1960年代の終わりごろにスタンフォード大学が開設した「スタンフォード・リサーチ・インスティテュート」によって開発された手法です。

米国や欧州各国を中心に、1970年代から実施され、日本でも1990年代から徐々に普及してきています。産業界では「ビジネス・インテリジェンス」と呼ばれることもあります。

近年、トヨタ、IBM、ロレアル、KDDI、日立製作所、パナソニックなど多くのグローバル企業で実施されてきています。

国内でも、一橋大学をはじめ、東京大学、東京工業大学などの国立大学、NISTEP、産業技術総合研究所、国立環境学研究所、情報通信研究機構(NICT)、JST社会技術研究開発センター、NEDO、理化学研究所など数多くの研究所や行政機関で利用されてきています。

未来洞察の考え方

未来洞察(Foresight)の目的

この手法の目的は、10年先程度の未来を想定して、目前の社会変化による不確実性に対する社会変化のシナリオを構築することで、その先の技術適用の可能性について、ユニークな商品や研究テーマなどの「アイデア」を大量に構築することにあります。

企業での実施においては、「アイデア」の構築だけにとどまらず、それらを新たな事業機会領域のコンセプトシナリオとしてまとめたり、「アイデア」のうちの重要なものを試作(プロトタイプ)し、イノベーションの意識付けをしたりすることもあります。

未来予測(Forecast)と未来洞察(Foresight)

未来予測(Forecast)と未来洞察(Foresight)

未来に向けたシナリオを描く手法については、いわゆる演繹推論型の手法(=Forecast、未来予測)があります。

しかしForecast型の手法によるシナリオは、現在の直線的な延長でしか未来を描くことができないという問題があったり、楽観的な技術進化可能性に偏る傾向があったりして、従来とは違う方向性の出来事が発生した時に、実際にどのような現象が発生するのかをシナリオ化する力が弱いという特徴があります。

一方で、「未来洞察(Foresight)」手法は未来に発生する、そもそも予測しにくい要素について、可能な限りの情報を集め、それを構造化して理解する、帰納推論型の手法です。

日々の生活の中で起こっている予測困難な変化事象をよく調べてみると、意外にも、もとは遠い外国で起こったムーブメントであったり、同じ現象が他国ではもっと早く、そして明確な形で起こっていたりすることが非常に多く見受けられます。また、まったく関係のなさそうな分野で起こった流行が、いつの間にか巨大な潮流になってしまうことがあります。突発事象の「芽」ともいえる微細な社会変化に着目して、その方向性を精密に議論することで、不確実な未来の兆しを捉え、視点の拡張を促すのが帰納推論型手法の特徴と言えます。

未来洞察の方法

未来洞察の方法
「未来洞察」は以下の5つステップで実施します。

1.スキャニング・マテリアルの収集

スキャニング・マテリアルとは、既存のトレンドや業界潮流とは異なり、かつ業界全体や生活者へのインパクトが強いと思われる世界中にある未来観(ニュース、視点)を収集し、コメントを加えたものです。

このスキャニング・マテリアルを100~200個収集し、これらを「未来の芽」「兆し」の定性データとして未来の社会変化に対する仮説を構築します。

2.社会変化仮説*の作成

*「社会変化仮説」のことをKIZASHI-LABでは「KIZASHIシナリオ」と呼んでいます。

収集したスキャニング・マテリアルをもとに帰納推論によって「こんな社会変化が起こるかもしれない」という社会変化の仮説を作成します。この作成をワークショップで行います。

「社会変化仮説」作成ワークショップの流れ
  1. ・100~200程度のスキャニング・マテリアルをざっと読む。
  2. ・各参加者の仮説アイデアをグループごとのディスカッションで集約
  3. ・グループごとのディスカッションで深めた仮説アイデアを全体ディスカッションでさらに集約し、最終的に5~8個程度の「社会変化仮説」とする

「社会変化仮説」は、非連続な未来が描かれている文書、いわば人間が普通に想像しただけでは思いつかないような突発的な未来の変化が書かれたシナリオになります。
このシナリオは荒唐無稽に思える内容になるかもしれませんが、スキャニング・マテリアルという未来の「芽」からできたものであり、単なる妄想とは異なります。

KIZASHI-LABでは、毎年1回「社会変化仮説」を作成するためのワークショップを通じて「社会変化仮説」を更新・追加しており、それらを「KIZASHIシナリオ」という名前を付けて紹介しています。

3.未来イシューの作成

「未来イシュー」とは、当該企業や組織の「技術開発の趨勢」「企業戦略」を踏まえた中長期ロードマップをもとに演繹推論によって作成した、将来の顧客像や将来想定するビジネスなどのシナリオです。

「未来イシュー」は未来洞察を行う時の主語の役割を果たすものであり、「何のテーマについての未来シナリオを作るのか」を規定するものになります。

「未来イシュー」は、そのテーマに関する5つ程度を作成します。

4.インパクトダイナミクス

帰納推論で作成した「社会変化仮説」と、演繹推論で作成した「未来イシュー」を掛け合わせ、強制発想により多数のアイデアを生み出します。インパクトダイナミクスもワークショップ形式で行います。

説明のために、例として「社会変化仮説」がA~Fの6つ、「未来イシュー」が①~⑤の5つあるとします。
インパクトダイナミクスでは、全ての「社会変化仮説」「未来イシュー」の組み合わせ(例では6×5=30の組み合わせ)1つ1つについてアイデアを作ります。

具体的には、例えば「未来イシュー」①で想定した技術や事業シナリオが、「社会変化仮説」Aの影響を受けてどうなるのか?を「未来商品アイデアの企画資料」の形で記載します。

同様に、①とB、①とC、・・・、⑤とA、⑤とB、・・・、⑤とFの組み合わせそれぞれについて「未来商品アイデアの企画資料」の形でアイデアを作ります。例では合計30個のアイデアが生み出されることになります。

「未来イシュー」「社会変化仮説」の組み合わせによっては、一見アイデアを考えにくいものもありますが、強制発想で無理やりでもアイデアを出すことに意味があります。

4.インパクトダイナミクス

5.未来シナリオの作成

インパクトダイナミクスで生み出した大量のアイデアを俯瞰し、その企業あるいは部門にとってのコンピタンスを活用した新しい事業機会がどこにあるのかなどをまとめたものが「未来シナリオ」になります。

なお、KIZASHI-LABでは、3.未来イシューの作成、4.インパクトダイナミクス、5.未来シナリオの作成も行っていますが、企業や組織の保有技術や事業内容、戦略に関する情報を扱うことがあるため、原則として公開はしていません。

手法の有効性について

作成した社会変化仮説の有効性について、2006年と2012年に本手法で作成した社会変化仮説(HS2006:8本)(HS2012:6本)と従来的な技術予測手法(技術ロードマップ法など)で作成した未来予測(NEDO2009:3本)(De:2014:4本)を、2019年段階で一般生活者にブラインド評価してもらったところ、本手法での社会変化仮説の的中率が全体平均に対して有意に高いことが分かりました。
(Washida, Y. and Yahata, A. (2020), “Predictive value of horizon scanning for future scenarios”, Foresight, Vol. 23 No. 1, pp. 17-32.)

鷲田祐一教授

監修
一橋大学大学院 経営管理研究科
鷲田祐一教授