他者との関わりで生まれる、これからの学びの姿とは?〜清河幸子さんインタビュー〜

他者との関わりで生まれる、これからの学びの姿とは?〜清河幸子さんインタビュー〜

2023/1/20

人と関わり合い生きている私たちにとって、“協同”はごく自然なもの。しかし、人と関わることが、自分の学びにどのような影響があるのかは、驚くほど知られていない。これからますます膨大になってくる情報の海で、泳いでいかなければいけない私たちは、どのように協同し、学びを得ていくべきか?教育学研究者の清河幸子先生にお話を伺いました。

教育学研究の先駆者、清河先生にインタビュー

今回インタビューしたのは、東京大学大学院教育学研究科の清河幸子先生。清河先生の研究テーマは、「他者とのかかわりによって生み出される、人間の賢さと愚かさ(賢くなさ)を捉えること」。

一般的に「人と人の関わり方」というと、一人でやるのか大勢でやるのか、“協同”すべきかどうか、といった二元論に陥りがちです。しかし清河先生は、その“協同”の中で起こっていることに注目し、ブラックボックスとなっている人間の営みを解き明かそうとされています。

多様な人が関わり合う環境下では、人はさまざまな影響を受けていきます。その中で、人はどのように問題解決をして、学びを得るのか。そして、これからの学びの姿はどのようになるのだろうか?清河先生に伺いました。

人の学びは、他者が関わることでどう変わる?

人の学びは、他者が関わることでどう変わる?

それでは、学びの場において、他者が関わることはどんな変化をもたらすのでしょうか?清河先生に面白い事例を伺いました。

他人にアドバイスを求めたとき、具体的なアイデアを示してくれる人と、「あなたはどうしたいの?」「それはどうして?」のように問題から離れた立場から反応をする人がいたとします。どちらと関わると学びがあるでしょうか?具体的なことを話してくれる方がわかりやすいし学びがありそう、問題から離れた立場から反応されても役に立たないと考える方も多いのではないでしょうか。しかし、清河先生のお話では、問題から離れた立場からの働きかけ(メタレベルの働きかけ)を受け取り、それに答えていくことには、学びを深めていく効果があるのだそうです。例えば、自分の考えを説明をしたときに、「なぜそう考えたのかがよくわからないから、もう少し教えて」と相手から質問されたとします。そのとき、相手に伝わるように説明し直すことで、自分自身の考えの捉え直しが促進されるのだそうです。

また、別の事例についても伺いました。他者が関わることは、評価の方法や結果にも、影響を与えているというのです。「傍目八目(おかめはちもく)」という言葉がありますが、人は、自分のことよりも他者のことの方が見通しが利き、より広い視野で客観的な評価が可能になるのだそうです。実際に、自分が考えた事でも、それを「他者の考えた事」と捉えた場合、より適切な評価ができるのだとか。

清河先生のお話を伺うことで、まだ知られていない協同における学びの面白さが見えてきました。

技術の進歩により、学びの姿は変わるのか?

技術の進歩により、学びの姿は変わるのか?

そして、未来の学び方について話が及びます。例えば、AIの発達により、さまざまな思考プロセスが明らかになった未来では、学びはどのように変わるのでしょうか?

清河先生は、「経験し獲得していくプロセスこそ大事」と言います。
さまざまな知識や技能、マインドをインプットするだけでは、知識量こそ増えますが、考え方を変えることはできません。学んでいく過程で、考え方そのものがシフトし、知識構造に変化が起こるような経験をどれだけつめるのかが、学びには重要なのだそうです。

そう考えると、一人で黙々とインプットする学びではなく、他者と関わり合いながら、質問しあったり、視点を変えて考えていったりする学びのアプローチが、非常に重要な意味を持っていることがわかります。清河先生は、次の様にもおっしゃっていました。「学ぶ資源が大量にあるのは今でも同じ。なぜ学ぶのか、何のために学ぶのかという目的があってはじめてたくさんの情報から選びとることができる」と。

これから必要な学びとは?

これから必要な学びとは?

それでは、清河先生にお聞きしてみます。これからに必要な学びの姿とはどのようなものなのでしょうか。次の3つのポイントが浮かび上がってきました。

1.みんなが今よりちょっとずつ考えること
これまでのやり方や知識だけでは太刀打ちできない状況が訪れたとき、どうしようかと考えたり、みんなで知恵をもちよったり。投げ出さずに、今よりもちょっとだけ考えてみることが大事。

2.与えられたものでなく自分から考えること
与えられた問いに答えるという学びだけではなく、自らテーマを見出し、何を問うべきかから考えていくことが重要になってくる。
また、だれかに相談することも、自分で考えることを支える方法のひとつである。

3.無駄をゆるし、試行錯誤ができる環境がある
学びがより探索的になる中で、試行錯誤ができる環境は重要になる。無駄を排除せず、さまざまな解釈を許容する豊かさが求められる。「やってみたけど無駄だった」も学びにつながる。

あなたにとっての未来とは?

最後にお聞きしました。清河先生にとっての未来とは?

それは、「今、この一瞬を変えていく先にあるもの。」
今、何をするのかで未来は変わっていく。だからこそ、足元を見て一歩一歩進むことで、確実に未来は変わる。

【編集後記】
インタビューをとおして、他者と関わり合うことが、いかに経験が豊かにするのかを感じました。また一方で、他者と関わる中で、自分の意思を明確にし、進んでいく大切さについても考えさせられました。人は人と関わることで学んでいく。このことは、時代が変わっても変わることのない本質的なことなのかもしれませんね。

清河先生、貴重な時間をいただきありがとうございました!

清河幸子さんプロフィール

東京大学大学院教育学研究科・教育学部 准教授
総合教育科学専攻教育心理学講座 等担当
テーマ:「他者とのかかわりによって生み出される人間の賢さと愚かさを捉えることを目指しています。」
東京大学大学院教育学研究科・教育学部:https://www.p.u-tokyo.ac.jp/
清河研究室:https://www.kiyokawalab.com/