障害者というプロフェッショナルとともにつくりだすワクワクする未来〜タキザワケイタさんインタビュー〜

障害者というプロフェッショナルとともにつくりだすワクワクする未来〜タキザワケイタさんインタビュー〜

2023/1/26

わたしたちを取り巻く社会には、様々な障害を抱えた方がともに生活しています。ただしその距離感は人それぞれ、身近な場所にいることもあれば、全く縁がないことも。障害があるという状況は社会にどう影響しあい、環境がつくられているのでしょうか?包摂的な社会をつくるインクルーシブデザイナーのタキザワさんにお話をうかがいました。

きっかけは「マタニティマークってどこでもらえるの?」から

今回インタビューしたのは、PLAYWORKS株式会社のタキザワケイタさん。インクルーシブデザインに取り組む企業を立ち上げ、多様な障害のある人々と「ともに創り、社会を前に進めよう」というメッセージを掲げて活動をしています。

最初にインクルーシブデザインを手掛け始めたのは、奥様の妊娠がきっかけだといいます。
「妊婦さんが付けているマタニティマークはどこでもらえるものなのか?ネット検索しているうちに、関連ワードで嫌がらせなどネガティブな情報がたくさん出てきました。そんな日本の状況をどうにかしたい、と考えてアプリの開発に取り組んだことがきっかけです。そこから幅広く困っている人、聴覚障害者の方、視覚障害者の方、車椅子の方などに話を聞いていくことからスタートしました。」

当初は身近に障害がある人がいたわけではなく、また自分が関わるイメージもなかったタキザワさん。「内心どこかで避けていたところがあった」と率直な言葉で話してくださいました。妊婦さんを手助けするマッチングアプリの開発を機に、改めて障害者の方の困りごとにも向き合ったとき、発見だらけだったといいます。

マイナスをゼロにするのではなく、マイナスから大ジャンプする

マイナスをゼロにするのではなく、マイナスから大ジャンプする

「例えば、明日起きた時に目が見えなくなっていたら、きっと僕たちは何もできない。でも視覚障害者の方は光のない世界で生きているプロ、教えてもらうことばっかり、発見ばっかりです」

インクルーシブデザインではプロジェクトに関わる障害者の方をリードユーザーと呼び、未知の世界へ導いてくれるプロフェッショナルとして共に活動していきます。視覚障害者の方が持つ白杖もリードユーザーと共創したプロジェクトのひとつ。白杖を持つ方からは「白杖を持つことで、社会から障害者として見られる」「できるだけ白杖を持ちたくない」という切実な声がありました。こういった声から、スポーツメーカーとの協業により、持って出かけたくなる白杖を開発。自慢したくなるカッコいいデザインと、振ったときにスムーズに使える軽さを実現し、これまでにないスポーティな白杖が生まれました。

企業との取り組みの中でも、障害者向けのなにかを考えようとするとつい「困っていることはなんですか?」と課題探しが始まってしまうといいます。しかし、この課題から考え始めるだけでは、課題が解消するゼロにたどりつくだけ。タキザワさんは更に「障害があるからこそ気づけること、見える未来があるのでは?」と考え、障害者も健常者もワクワクするようなマイナスからプラスへのジャンプを追求しています。

持ち味の掛け合わせで未来のプロダクトを生み出していく

持ち味の掛け合わせで未来のプロダクトを生み出していく

インタビューにお持ちいただいたプロダクトには、世界初の薄型ソーラービーコン内蔵点字ブロックも。この点字ブロックの中にはソーラー発電型の発信機が内蔵されています。視覚障害者の方がこの点字ブロックに近づくと、スマートフォンのLINEアプリに通知が届き、ハンズフリーの音声で道案内情報を聞くことができます。このプロダクトでは、ビーコンを取扱うシステム開発のメーカー、点字ブロックメーカー、ソーラー発電型の発信機を開発できるメーカー、そしてPLAYWORKSと4社での共同事業として取り組み、現在は大阪で実証実験が行われています。

持ち味の掛け合わせで未来のプロダクトを生み出していく

さらに、視覚障害のある方々からの「絵を描きたい!」という夢を叶えようとしているチャレンジをご紹介いただきました。こちらは文具メーカーと共同で進められている、視覚障害者と表現するよろこびを探求するプロジェクト。当初は視覚障害がある方が「使える」画材をつくるというテーマだったものが、リードユーザーの皆さんと一緒にワクワク楽しめるものを試作していったところ、なんと8つものプロトタイプができあがっています。使いやすいことはもちろん、触覚を拡張したり、見えないからこそできる表現を追求したことで、晴眼者の表現も豊かになるという発見がありました。

自分にはない視点をみつけるために仲間が必要

わたしたちも改めてインクルーシブデザインの現場を知ったばかりですが、自分たちが働く会社でインクルーシブデザインに取り組んでいくには、どんなことが重要なのでしょうか。

「インクルーシブデザインは、障害者の方の問題を解決するだけではなく、一緒に社会課題やビジネス課題も解決していける手法です。障害のある方を社員として雇用することは、自社にリードユーザーがいるということになります。たとえばメンバーに聴覚障害者の方がいたら聴覚に依存しないUXのデザインが、ロービジョンの方がいたら誰にとってもわかりやすいUIのデザインができるはずです。」

リードユーザーの方が企業内で活躍することをうれしく話されているタキザワさん。そもそもプロジェクト自体が仲間探しだと言います。自分たちだけでできることは限られていることを自覚し、思いを持った人や企業との出会いを大事にすること。また、企業同士が競合ではなく、ともに新しい未来をつくる仲間だというマインドセットを持つことが必要です。

社会の課題に立ち向かい続ける

社会の課題に立ち向かい続ける

タキザワさんはこれからの社会について
「いまの社会は多様性を推進していますが、多様であることは価値観がたくさんあることであり、それによって対立が生まれることがある。けれど、互いの違いを認め合い、面白がり、刺激し合うことで新しい価値が生まれていくことが理想です。今の社会は課題だらけですよね、社会課題なんてすぐ解決できるほど甘くはない。いろんな人たちと、違いを楽しみながら一緒に立ち向かい続けていきたいです。」といいます。その姿勢はとても柔らかいながらも、様々な方の期待を背負い、社会実装まで走り抜く決意も話されていました。

楽しみながら、課題に立ち向かっていく。わたしたちもともに仲間になって、一緒にチャレンジをし続けていきましょう!

タキザワケイタさんプロフィール

PLAYWORKS株式会社 代表
インクルーシブデザイナー・サービスデザイナー

PLAYWORKS は障害者など多様な人々との共創からイノベーションを創出する、インクルーシブデザイン・コンサルティングファーム。インクルーシブデザイン、サービスデザイン、ワークショップの豊富な経験やノウハウ、リードユーザーコミュニティを活用し、新規事業・サービス・製品開発・人材育成・組織開発を伴走支援しています。
筑波大学 非常勤講師・九州大学 講師・青山学院大学 ワークショップデザイナー育成プログラム 講師・一般社団法人PLAYERS リーダー