個々の想いが社会を動かすこれからのものづくりとは?〜関治之さんインタビュー〜
ひとりでは解決しにくい社会課題も、人があつまり知恵をもちよることで、解決されることがあります。企業、行政、市民という垣根を超え、それぞれの想いと技術をもちよる活動「シビックテック」では、まさにその参加型のものづくりが行われています。今回は、シビックテックを推進されている関さんにお話をうかがいました。
個人で参加できる、社会のためのプロジェクト
関さんが代表理事を務めるCode for Japan(コード・フォー・ジャパン)は、「ともに考え、ともにつくる。」を掲げ、シビックテックを推進する一般社団法人です。市民と行政と企業が、よりよいまちづくりや未来づくりするためのコミュニティビルディングやデジタル活用の支援をされています。
例えば、みんなでアイデアを考えるワークショップ「アイデアソン」や、みんなで開発を行う「ハッカソン」などを各地で実施。オープンデータを活用し、さまざまなアプリケーションを生み出す場を推進されています。
(下図は、アーバンデータチャレンジ2022岐阜の様子/Code for Japan サイトより引用)
社会貢献したいという想いの受け皿が求められていた
コード・フォー・ジャパンのコミュニティは、7000人にものぼるそうです。(Slack参加者/2023年3月現在)。全員が常に活発に活動しているわけではないと言いますが、これだけの人が社会課題に興味をもち、自分たちで解決したいと考え行動していることに、大きなパワーを感じます。
「コロナ禍の中、普通に仕事をやっているだけでなく、社会に貢献したいという想いをもつ人がでてきた。そのとき、想いを受け止められる団体として注目してもらいました。」
と、関さん。
こうして人が集まり生み出されたアウトプットの代表例として、新型コロナウイルス感染症対策サイトがあります。(下図は東京都新型コロナウイルス感染症対策サイトより引用)
このウェブサイトは、一般の開発者やデザイナーが約300人集まり、意見を出し合いブラッシュアップをしながら短期間で開発されました。また、その東京都版をもとに、約80地域の派生版コロナウイルス対策サイトが作られるといった大きなムーブメントを起こしました。
参加型活動の肝は、個人のモチベーション
では、このようなオープンな参加型のプロジェクトは、どのように始まっていくのでしょうか?
「どういう課題、領域で活動してみたいか?自分が抱えている困りごとは何なのか?自分のもつスキルセットは?といった問いの答えに応じて活動の仕方は様々です。これが、とてもオープンで自由であるという反面、とっつきづらいと感じられる、難しいところです。」
そう話す、関さん。課題も活動内容も違う地域と、やりたいこともできることも違う個人を、マッチングさせることの難しさを語ってくれました。
「結局は、自分のモチベーションがわかないことをやっても続かない。参加する人自らが、何ならおもしろいと思えるのかが論点になります。」
オープンな活動は、小さく試すことから
コード・フォー・ジャパンでは、市民参加の場づくりだけでなく、自治体と企業をつなげたり、自治体どうしのコミュニケーションの場をつくったり、オープンな活動を推進されています。このような活動をつくりだすには、どうしたら良いのでしょう。関さんが大切にしていることを伺いました。
「まずは、議論ばかりせず、早めにアウトプットを世の中に出していくことです。議論は楽しいし、生み出していくには労力がかかる。しかし、議論ばかりしていても、しだいに勢いがなくなりフェードアウトしてしまいます。早めに何かアウトプットを出して、仲間が増えていくようなサイクルをつくることが大切です。中途半端でも良いので、恐がらずに世の中にものを出すことを意識しています。」
また、企業や行政の中の課題を、次のようにも語られています。
「自治体や大企業では組織どうしの壁や組織の中の壁があり、オープンなディスカッションができないことがあります。自分は良いけど、会社としては……といった、オープンに対する心理的な壁です。これを乗り越えないと解決できない問題はたくさんあります。そのために、なるべく縦割りの壁を壊していくということも意識しています。」
オープンな活動に踏み切れない企業や行政は多いそうです。このような場合は、まずは個人として参加してもらうことから始めるなど、組織の責任を背負わなくてもよい状態をつくることも効果的だそうです。
(下図は、『シニアのわかんないの解決策をみんなで考える日』の様子/Code for Japan サイトより引用)
企業が担うべきは「オープン&コネクテッド」
いまこそ、企業に「オープン&コネクテッド」が必要だと語る関さん。企業がオープンにつながりながら活動していく意味とは、何なのでしょうか?
「これまでは、経済合理性としての囲い込み戦略が、どこの企業でも行われてきました。しかし、一つの企業だけでできるものを創って、喜ばれるものを提供しつづけるのは難しい社会になってきたと思います。だからこそ、一緒にできるパートナーを増やし、連携しながらサービスをつくっていけるようなエコシステムが必要です。例えば、APIを通じてサービス拡張されていくような状況をつくったり、デベロッパーコミュニティやユーザーコミュニティをつくったりすることで、いろんな人が参加しやすくなります。」
シビックテックというと、個人が参加する社会活動のイメージをもつ方もいるかもしれませんが、企業側もAPI連携やコミュニティ運営などで、参加していくことが可能なのですね。ところが一方で、企業側では、APIをオープンにすることに高いハードルがあるのも事実。企業側ではどのように考えればよいのか、関さんに伺いました。
「最初から、全部をオープンにするのが難しければ、まずは期間限定でやってみる、ワークショップの間だけオープンにしてみる、などと考えてみるのもよいですね。」
「それから、APIのオープンの危険性に注目するよりも、オープンにすることで可能になることを考えてみてはどうでしょう。例えば、今はいろんなユーザーがいて、さまざまな利用シーンがあります。企業側から見えない利用シーンも、ユーザーとなら見えてきます。データをオープンにすることで、新たな活用シーンを生み出すことができるとすれば、データをオープンにする理由になるはずです。」
(下図は、オンラインのグローバルハッカソン「Hacky New Year 2023」の様子/Code for Japan サイトより引用)
シビックテックでつくられる、これからの社会像とは?
オープンで関わり会える社会が実現されれば、どのような未来がくるのでしょうか?
「それぞれの個が主体性をもって輝く社会ですね。今はまだ、日本の中には組織や行政が言っていることを受け身でやっているカルチャーがある。しかしこれからは、働き方もより自由になり、これまでのスキームを守るのではなく、自由闊達な意見を出しあえる社会がくると良いと思います。会社でも地域でも良いので、個人が能力を発揮し、活動したことで感謝されていく。この感謝の循環が増えていくと良いですね。」
「そして、働き方で言えば、多様な人たちとチームになるということがとても大事になってくると思います。いろんな方と関わり合えるようなコミュニティマネジメントや、タレントをかけ合わせていくような環境も、重要になってくるはずです。そして、1人の人が活躍できる場所もひろがり、さまざまなフィールドを選んで、活動できるようになる社会がくると良いと思います。」
仲間さがしからはじめてみよう
最後に、シビックテックに挑戦してみたい方に向けてメッセージをいただきました。
「ぜひ、仲間をつくっていただきたい。生活や仕事をする中で、こうなったらいいのにな、未来のために自分の能力をつかいたいな、と思う人は多いと思う。自分がやりたいことが明確になっていなくてもいい。まずは発言をすると、想いを共有できる人が見つかるはず。
最初の一歩を踏み出してみましょう。」
(下図は、オンラインのグローバルハッカソン「Hacky New Year 2023」の様子/Code for Japan サイトより引用)
関治之さんプロフィール
シビックハッカー、政策起業家
一般社団法人コード・フォー・ジャパン代表理事。「テクノロジーで、地域をより住みやすく」をモットーに、会社の枠を超えて様々なコミュニティで積極的に活動する。
住民や行政、企業が共創しながらより良い社会を作るための技術「シビックテック」を日本で推進している他、オープンソースGISを使ったシステム開発企業、合同会社 Georepublic Japan CEO及び、企業のオープンイノベーションを支援する株式会社HackCampの代表取締役社長も勤める。
また、デジタル庁のシニアエキスパートとしてシビックテックを推進する他、神戸市のチーフ・イノベーション・オフィサー、東京都のチーフデジタルサービスフェローなど、行政のオープンガバナンス化やデータ活用、デジタル活用を支援している。
その他の役職:総務省 地域情報化アドバイザー、内閣官房 オープンデータ伝道師 等