VUCA時代の未来のつくり方を探ろう!オンラインイベントを実施

VUCA時代の未来のつくり方を探ろう!オンラインイベントを実施

2023/3/13

未来を想定しようと取り組む人たちはどんな風に未来を考え、キザシを感じているのでしょうか?2023年3月13に開催されたオンラインイベント「KIZASHI DIALOGUE」では先進的な未来創造の研究者と、パナソニックグループで活動する社員を招き、それぞれの立場から、未来をつくるヒントを探っていきました。

第一部「予想できない未来の発想法」

第一部「予想できない未来の発想法」

第一部「予測できない未来の発想法」では2名の研究者を招き、どう未来を捉えるか? 発想法という視点でお話いただきました。

進化する価値創出「EDP」

まずは東京工業大学 環境・社会理工学院の齊藤滋規先生より、エンジニアリングデザインプロジェクト(EDP)という、価値創出のための方法論と、それを実践的に行っている産学連携教育プログラムについて。

「わたしたちが未来を考えるとき、つい未来を予測すると考えてしまいますが、その予測はどんなに精度を上げても不確かなものです。過去にアラン・ケイも引用したように『未来を予測する最善の方法は、それを発明すること』が実は最善です」

「この不確かさ、曖昧さに対応していくにはトレーニングが必要です。東京工業大学(以下、東工大)では日本で初めてこのトレーニングを実現しました。EDPはデザイン思考のエンジニアリングにおける実践です。エンジニアはできることから発想して、何かできることを考えますが、まずはその考え方から離れます。離れることで初めてエンジニアの持つポテンシャルが解放される。そしてリアルな現実と向き合うためにデザイン思考を活用します。このトレーニングは企業との連携があり、実際の課題に基づいたテーマが設定されます。テーマに向き合う中で直感と論理の使い分けを実践し、これまで属人的な能力に委ねられていたニーズを見つける感覚を習得します」

半年ほどの期間の中、当初はテーマだけだったものに対して、動くプロトタイプまでできあがる。想像上のものが現実界にどのような影響を及ぼすのか、プロトタイプを毎回つくって現実界に持ち込みながら考え、何度もユーザの気持ちや行動を考えていく。これは企業の中でも非常に重要なプロセスに見えてきます。

「分析」と「構成」の2つの推論

「分析」と「構成」の2つの推論

次は一橋大学 商学部/経営管理研究科経営管理専攻の鷲田祐一先生から、未来を議論する際に意識しておきたい「前方推論」と「後方推論」の考え方を教えていただきました。

「科学的に問題を考えるときや、課題解決のときには分析するのが当たり前になっているが、未来を考えるときに分析がどこまで有効なのか? 今回は分析(analysis)の反対として構成(synthesis)という言葉を使います」

「分析とは今起きている事象から、過去にさかのぼっている行為、つまり後方推論です。起きた物事に対して分析をすると要因がいくつも見つかりますが、『なんで起こってしまっているのだろう?』とWhy?をもって考える。過去にさかのぼって原因を潰し、未来を良くするという発想は、自然科学思考の基本姿勢でもあります。一方、構成の場合。要因がいくつもあり、先の近未来に発生するものとして事象をとらえます。つまり前方推論です。未来が今より良いものであればいい。そのためにはどんな要因があればいいだろう?と考える。このときにはSo What?というプランニングの基本姿勢を持ちます」

「発想の仕方はとても似ているのですが、分析に慣れているわたしたちは今見えていること・起きていることを、自分でとらえられるだけの小ささに分けて考えてしまいます。でも、起きたことを潰すための個別の解決策を考えるのではなく、難しい状況の中でどのようなものを足せばより良くなるのか?を一度も過去に戻らずに前に向かって考えることが構成です」

「過去にさかのぼっても要因が潰せないとき、そこでお手上げにならないようにしたい。そのためには、前方推論「構成」で考える必要がある。デザイン思考はこういうときに役立ちます」

構成を意識するには、リアルの場や身体知も重要です。課題のフォーカスだけではなく、視野の端でふと見えた全然違う情景や、誰かの過去の体験を追体験することは、まさに構成だといえます。

クロストーク1「自分たちの手で未来をつくるとき重要なことは?」

クロストーク1「自分たちの手で未来をつくるとき重要なことは?」

齊藤先生は「自分たちが描く未来を強く信じること」といいます。

「自分たちがつくったシナリオなのに、その未来像を信じられないことがあります。でも自分たちが描く未来を強く信じていくことが大切です。つくってみて「これじゃないな」となったら方向修正する。何度も構成しながら形成することが大事です」

鷲田先生からは「無理やりに“理想の未来”を考えないこと。ドラえもんにならないこと」

「どうしてもバックキャストの良さを活かそうと思うと、理想の未来を高めてしまう。未来像を高めすぎずに、目の前の何をクリアしたいのか? をとらえる必要があります。ドラえもんには夢の機械がたくさんでてきますが、数年後に使えるものを考えるときには向いていません」

つい陥りがちな、ドラえもん的発想を回避するには、今の自分たちにできなくても、外部から何か技術やリソースを持ってくれば、もしくは自分たちが少し成長すれば実現できるのか? 今後10年あなたの仕事にできますか?と問いかけることが大事だといいます。

齊藤先生「飛躍は必要だけど、チャレンジできる飛躍なのか。自分の仕事として取り込めるのか。いつかできたらいいねというファンタジーで終わるものとは明確に分けましょう」

鷲田先生「分析をしながら、過去に起こったことを嘆いてもしかたがありません。地震のような災害を起こさないようにするにはどうしたらいいかを考えたところで地震は起きる。地震停止装置は絵空事です。起きた時にどうするか? を考える必要がある」

―自分たちの手で未来をつくろうとしたとき、高すぎる理想の未来と、変化を起こせる未来、この見立てのバランスを取るようなスキルはどうやって養うのでしょうか?

齊藤先生「プロトタイプをつくる癖をつけてみまましょう。もしかしたら作れるものかも? と思えるか。想像だけの段階では、自分で認知をゆがめている可能性があるため、簡単なものを実体にして認知しながら考えていきます。想像を現実界にスピーディに持ってきて、リアリティと飛躍を高速に行き来することが大事です」

クロストーク2「未来をつくることの難しさとは?」

クロストーク2「未来をつくることの難しさとは?」

鷲田先生「都合の悪い”現実”から目をそらさないこと。幅広く、しかし浅く、物事をずっと眺め続けること」

「日本人は深く考えることが美徳になっていますが、幅広く浅くずっと眺めるには技術が必要です。浅く広く見ていると都合の悪い現実も見えてくる。ピュアな人であればあるほど、自分の知りたいことだけを深く考えてしまいます。ワークショップをしていても、都合の悪いところから目をそらすことが見受けられます。嫌なことに面しても、なるべく目をそらさないようにしないと、本当に危ない現実、嫌な現実が迫った時に目をそらさずに、いつでも動き出せるよう広く見ていましょう」

齊藤先生「飛躍のあるシナリオでも共有して活動する仲間を得る」

「新規性の高いものを産もうとすると、『そんなものつくって意味あるの?』と心が折れそうなことを言われる可能性があります。ひとりで何でもやるのはしんどい。潜在ユーザに届けるまで考え続けられる仲間をみつける。地に足を付きながらも飛躍を見る、相反する難しいことを泥臭くやりながら、それでも未来をつくる仲間を育てることが重要で、そして難しいことです。EDPという教育プログラムの立上げも難しいものでしたが、他の仕事で一緒に修羅場をくぐりぬけたメンバーが“こいつは何かを残すだろう”と一緒に組んでくれたことが大きかったです」

―仲間が大事というポイントがありましたが、その仲間は、どうやってつくっていけばいいでしょうか?

齊藤先生「大きなことをやる前に小さい仕事を企んで、ちょっとだけ難しめのタスクから始めてみましょう。ちょっとだけチャレンジングに、社内公募に応募してみたりする。この時にそれぞれが自分の力量を越えようとすると、お互いの信頼関係のクオリティが変わります。そうすると、いずれチャンレンジ度の高いものに取り組むときにも“このチームならできる”という確信にも変わっていきます。そして、この人がいいな!という人にたどり着くために色んな人といっぱい仕事をして、こいつだと思ったら逃さない。自分たちの活動を発信するのも大事です」

鷲田先生「東工大のように部屋をつくって、いつでも来てねという場を見せる、知らせることも仲間探しに有効です。その部屋はオープンであり、教える・教わるの関係ではなく、何かを一緒につくるプロジェクトをするという場所に紐付いたメッセージを出して、人が集まる場所になるといいですね」

第二部「未来をつくる私たちのキザシ」

第二部「未来をつくる私たちのキザシ」

第二部は「未来をつくる私たちのキザシ」と題して、パナソニックグループで活動する3名の活動家にお話を聞いていきました。

■蓑田佑紀さん:一人ひとりが脱炭素と向き合うこれからの生活
「世界でも対策や関わり方が検討されている脱炭素の問題。アメリカではどれだけ脱炭素に貢献できたかを数値で見ることが流行っています。日本ではゴミ拾いが脱炭素と結び付けられていたりします。アプリによって、どこでどれだけ回収できたか? を可視化しながら、ゴミを減らす意識にもつなげています。ひとくちに脱炭素といっても、社会の問題ととらえるか? ライフスタイルの問題だととらえるか? には大きな差があります。私たちは身近なライフスタイルの問題だととらえることで、一人ひとりが脱炭素を意識しながら行動できるような取り組みを続けています。みなさんの活動を、個人向け脱炭素のライフスタイルとして連携できるかもしれません。ぜひ活動に参加してみてください。

■清水俊之さん:多拠点で変わる人間らしさ
「リモートワークが普及して働き方が大きく変わってきました。都市部と地方の二拠点生活については関心を持つ方も多く、すでに二拠点生活をされている方も増えてきています。都会と地方の二拠点生活には、基盤を維持するための仕事と、ゆっくりした時間・広い生活空間の両方が得られるメリットがあります。反面、実際には地域と移住者の価値観の差が生み出す問題も発生しています。
理想の暮らしを実現したい個人・家族と、それを受け入れる地域・コミュニティ。どちらのwell-beingも両立させる仕組みとして、価値観と地域をマッチングできるようなサービスを検討中です。二拠点をしている人や、面白い地域を知っている方、ぜひ情報をお寄せください。」

■森本高志さん:くらしと健康がデータ化されたヘルスケアの未来
「パナソニックは様々なくらしのデータをお客様からお預かりしていますが、病気のような健康の結果を示すデータはありません。仮に、いろいろなくらしのデータが健康の結果とつながることができれば、多くの当社製品がお客様の健康にお役立ちできる未来になると思います。ただし、データだけでは不十分で、健康のためには行動変容が重要です。例えば痛みがない高血圧のような不調では、なかなか人は行動を変えようとしません。データや技術を使って、健康への行動変容をおこしてお客様一人ひとりのウェルビーイングを実現したいですね」

社会はどのように変わってきているのか?

社会はどのように変わってきているのか?

私たちを取り巻く社会は、人間中心デザインに代表されるような人間本位なところから、人間個々へのフォーカスに終わらない周辺の環境や、それらをつなげる社会の構造もふまえていくような変化があります。二拠点生活にも現れているように、社会は一極集中型から分散型へ。それぞれが躍動していく豊かな社会に変化するきざしがあるようです。
だんだん見えてきている社会の変化をとらえた事業を考えていくために、欠かせないのが仲間です。ともに取り組む仲間を集めるために、いかに共感をつくっていくかも大きなキーとなります。また社会課題に対して関わり方がわからず戸惑う人も多い今、個人がどう関わればよいか? 関わり方の提案も含めたデザインを考えることが重要です。

このKIZASHI DIALOGUEでは、今まさに活動をしている方々のお話をうかがいました。これから新たな変化を起こす人たちにとって、ここがきっかけとなる場になるように。そしてここから世界とつながるムーブメントをつくっていけるよう、これからも活動を発信していきます。みなさんも是非、このムーブメントの先駆けとしてご参加ください。

登壇者プロフィール

■鷲田 祐一 教授
一橋大学
商学部/経営管理研究科経営管理専攻

■齊藤 滋規 教授
東京工業大学環境・社会理工学院
融合理系工学系エンジニアリングデザインコース
技術経営専門職学位課程(兼任)

■森本 高志さん
パナソニック株式会社 くらしアプライアンス社
(くらしと健康がデータ化されたヘルスケアの未来)

■蓑田 佑紀さん
パナソニックホールディングス株式会社
技術部門プラットフォーム本部
くらし基盤技術センター
カスタマーエンゲージメント部
(一人ひとりが脱炭素と向き合うこれからの生活)

■清水 俊之さん
パナソニックホールディングス株式会社
技術部門プラットフォーム本部
くらし基盤技術センター
カスタマーエンゲージメント部
(多拠点で変わる人間らしさ)