▼ 多様なバックグラウンドを持つ人たちが集まるPLT
Panasonic Laboratory Tokyo(以下、PLT)には、どういう人たちが集まり、どのような活動をしているのでしょうか?
藤田:PLTには新規開発プロジェクトを行うメンバーが多く、非常駐のメンバーも含めると現在およそ130人が入居しています。各プロジェクトチームは、エンジニアが大阪に拠点を置いている場合が多いため、主にパートナー企業やエンドユーザーなど、外部に接する必要のある人がPLTに入居しています。
石川:僕が所属する部門では、全メンバーの1/4くらいがPLTに集まっています。東京にいる人たちは「HomeX」に関わっている人が多く、2018年頃の立ち上げ時にはこの場でお客さまにHomeXのデモを体験してもらったり、パートナー企業の方とディスカッションしたり、一緒に実験したりして、共創に繋げていました。
篠原:ほかにも、他企業や大学機関などに「一緒に考えませんか?」と声をかけ、“コラボレーション”という形でワークショップの開催をするなど、さまざまな共創活動を行なっています。
みなさんの普段のお仕事や、所属部署での役割についても教えてください。
藤田:私はエンジニアとしてパナソニックに入社し、30歳を過ぎた頃から新規事業に関わるようになりました。
現在はIoT機器向けクラウド管理基盤のサービス「Vieureka」を担当しています。メンバーは現在18名。小規模な体制の中で、経理、法務、人事を除く、開発や営業、マーケティング、運用といったほとんどの職能をチーム内に備えている珍しい組織です。私はサブリーダー(課長職)という立ち位置で、プロジェクト全体のマネジメントを行なっています。
石川:僕は元々TOTOでプロダクトデザイナーとして働いていて、パナソニックには2018年に中途で入社しました。
研究開発部門にある「くらし基盤技術センター」に所属し、当時本格始動したパナソニックのくらしの統合プラットフォーム、「HomeX」のプロジェクトに参画しました。ここではUIやUXにまで自分の領域を広げてデザインを行っていて、R&Dの中でもクリエイティブに寄った仕事をしています。現在は「HomeX」と並行して、「新しい価値」の種を発掘し、事業に結びつけるようなプロジェクトにも携わっています。
篠原:私の場合、学生時代からパナソニックが手がける共創空間「100BANCH(ヒャクバンチ)」で活動していました。
そこでは、デザインシンキングの手法を用いて「Fukidashi」という翻訳機をチームで開発し、市場性検証を行なっていました。その活動を通して、新しい取り組みに積極的なパナソニックの姿勢に魅力を感じ、2019年に新卒で入社。現在は、石川さんと同じ研究開発部門に所属し、社内の事業部門と連携しながら、新たなアプリやサービスを創出しています。
みなさん多様なバックグラウンドをお持ちですね。このように分野が異なる人たちがPLTに集まることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
藤田:ビジネス、テクノロジー、クリエイティブな人材が集まったBTC組織として、主体性をもってプロジェクトを進めていけることです。パナソニック全体を見ると、事業部があり、商品を開発する部署があり、販売を担う部署があり……と、専門性に分かれてさまざまな部署があります。しかも、それぞれが何百人単位の組織として機能している。
このような既存の組織編成では、一人ひとりが事業観をもって動くことは難しい。一方で、さまざまな職能を持つ人が10〜20人程度集まりBTC組織となれば、各自が自分ごととしてプロジェクトを捉えられるようになる。よりイノベーションの循環が起こしやすくなると考えています。
▼ 体制が整うことでの変化と、新しい挑戦に対する課題
PLTが誕生してから6年。どのような変化が生まれましたか?
藤田:体制が整うにつれ、メンバーに“顧客視点”が備わるようになったと感じています。お客さまとの距離感が近くなったことも影響しているのでしょう。エンジニア側の立場の人間も、これまでは「この技術を使ってほしい」と言われるままにつくっていたところから、「お客さんにとって価値があり、必要だからこの技術を使おう」という考え方に変わってきています。
メンバー同士はどのように交流しているのでしょうか?
藤田:コロナ禍になる前は、オープンスペースでの飲み会など、定期的にイベントを開催して交流の場をつくっていましたね。
石川:今はオンラインでの交流が中心ですが、Teamsを使ってPLT入居者同士で交流したり、オンラインでワークショップも開催したりしています。
篠原:開催されるワークショップも多彩で、そこに参加することで人脈を広げることができました。今も積極的に声を掛け合う姿勢がありますし、100BANCHのときのようなアットホームさと似た香りを感じています。
PLTにいることで、見えてきた課題はありますか?
石川:いろいろな職能の人が集まり、部署の垣根を越えてみんなで交流できる場なのに、マインドセットの問題なのか、あまり偶発的な交流が生まれていないことです。たとえば今日の座談会でも、僕は藤田さんについて「Vieurekaのサブリーダー」ということは知っていたけれど、「藤田さんが具体的にVieurekaプロジェクトの中でどんなことをされているか」までは知りませんでした。本来PLT内では、そうやって一歩踏み込んで相手を知る状況が頻繁に起こるべきだと思うんです。
篠原:たしかに、与えられた枠組みを越えて交流が生まれることは少ないように感じます。社内メンバー間でも言えないことがあり、結果的にオープンマインドでは無くなってしまうことがあります。そういったことが「一歩踏み込んで一緒にやろう」とする上で壁になっているのかもしれません。また、これまでPLT内ではじまりかけたプロジェクトがいくつかありましたが、正式な業務以外のことになってしまうので心理的なハードルがあって。「どう上司に説明しようかな」と考えているうちに、話がたち消えてしまうこともありました。
石川:「手伝って」とPLTのメンバーから言われて、上司にそのまま「やりたい」と伝えても、リソースの保証がされていなければ「所属している組織でやるべきことが疎かになるのではないか」と思われて、合意されにくくなりますからね。
「新しく共創プロジェクトをはじめたい」となったとき、どうリソースをつくり、ハードルを下げるべきだと思いますか?
石川:組織や場の課題に担当者が向き合うだけでなく、その一段上のレイヤーで意識が揃っていないと、末端の足並みも揃わないですし、その結果、現場でリソースの取り合いになるだけだと思います。たとえば、あらかじめ「20%のリソースは自分自身の意志で決められるようにする」といった仕組みが全社的に整備されていれば、合意も得やすくなるのではないでしょうか。
藤田:私はそれこそ上司にあたる立ち位置なので、そういう話がチームのメンバーから来たら、しっかり話を聞いてあげたいし、「いいよ」って言える環境をつくってあげたいですね。上司側が肯定的な姿勢でいることも、ハードルを下げることにつながると思います。
▼ 土壌づくりから、その先へ。未来を切り拓くために必要なこと
「0→1」を生み出し育むには、まだまだ課題があるように感じますが、これまでどのような取り組みが行われ、どのような成果が得られましたか?
藤田:PLTは、社内でアウトローな取り組みをする仲間が集まる場。困りごとも自然と似てきますから、「Vieureka」チームでは、共有できる情報は隠さないようにしています。たとえば、サービス約款をつくることもその取り組みのひとつ。パナソニックは元々ものづくりの会社ですから、サービスに関する約款はまだまだ充実していません。他のチームが新規サービスを立ち上げる際、最初の約款でつまずくこともあるでしょうから、前例を共有することでより素早く動ける土壌をつくっています。
また、昨年から情報発信に力を入れていて、メンバーみんなで取材記事やブログを書いたり、サービスの活用事例や分析結果の紹介、メルマガやプレスリリース配信など多角的に情報を発信し、Googleアナリティクスで分析しています。そこで得た情報発信のノウハウも、今後PLTで共有していきたいですね。
次に階段を登る人が一気に駆け上がれるように、「0→1」の“虎の巻”をつくっているのですね。
藤田:そうですね。困った時に助け合えるようにするためには、「何かをもらうなら、こちらからも何かを与える」といったマインドセットが大切です。「ギブをすることは仕事だ」という考えを、チームのメンバーには浸透させるようにしていますし、PLT全体にも浸透していけばと思います。
石川:僕の場合は、半分オフィシャル業務のような形で、ロボティクス技術と家具を組み合わせた新規事業づくりに挑戦しています。はじめは個人的な活動としてやっていて、1/1スケールの模型をPLTの共有スペースに置いていました。実際のサイズ感で見たり使ったりできるので、通りがかった人からユーザー目線の意見をもらえたり、関連技術を持つ人を紹介してもらうこともできました。そうやって自分が試してみたことに反応を得られ、育てていける点も、PLTならではの良さだと思います。
PLTには、この先どのような伸びしろがあると思いますか?
篠原:違う部門の人と仕事をしていると、リスクや不確定な要素があると「できない」と言われてしまいがちです。一方でPLTには「0→1」を起こそうとするモチベーションが高い人たちが集まり、応援する風土がある。さらに不確定な要素を許容するマインドもあります。リスクを恐れず「やろう」といったらすぐに始められる雰囲気に、伸びしろを感じています。
石川:おおらかな風土がありますよね。チームの垣根を越えて話を聞いてくれたり、困りごとに対してふさわしい人を紹介してくれたりして、ありがたいなと思います。
藤田:たしかに、PLTには会社に対して感じている課題感が似ている人たちが集まっているから、チームの垣根を越えて助け合えるんですよね。PLT全体として「0→1」が継続的に創出されていけば、会社全体にも変化をもたらせるはずです。
篠原:一方で、PLTをより成長させていくには、既存事業部が持つ専門的なリソースなど、PLT以外の人たちの力も必要だと思うので、少しずつ巻き込んでいきたいですね。
▼ コロナ禍を経て、より進化した共創の場へ
ユニークな人が集まるPLT。リニューアル後はどのような場所にしていくのか、展望を教えてください。
藤田:社外の人が入れるオープンなスペースが増えたので、社外の方々にPLTの環境を積極的に見せていきながら、関わりしろを伸ばしていきたいです。そこから新たなソリューションを考えることができれば、この場所はもっと面白くなっていくと思います。
篠原:PLTの環境を、社外の人とのコミュニケーションの場として活用したいですね。そうすることで、社外の人ともチームとして一体感を持って仕事ができるようになると思います。
石川:トライアンドエラーを繰り返しながら、どんどん改良していく姿勢が、よりよい場づくりにつながると考えています。僕は今回の改装プロジェクトで、「Kizashi LAB」という入居者同士のコミュニケーションを促すスペースづくりに参画していて。そこで一緒に活動していたメンバーが、その場にいる人のプロフィールをモニターに表示する仕組みをつくったのですが、そういうものも1回つくって数年後に改装されるまでそのままにするのではなく、常にプロトタイピングだと思って継続的に発展させていってほしいですね。
これまでお話にあがっていたPLTらしさやPLTの魅力を、どのように発信していこうと考えていますか?
藤田:これまでも、パートナープログラムやパートナーセミナーを数ヶ月に1回やってきました。今はオンライン開催になっていますが、今後オフラインでの開催ができるようになったら、新しいスペースをどんどん活用していきたいですね。
石川:僕の場合は、社外に発信できるものがあまりないため、社内に対して呼びかけて、フィードバックをもらうようにしています。たとえば、先ほど話したロボティクス家具の事業アイデアで、社内ピッチコンテストに参加したこともあります。そこから実証実験に協力してくれる人を募り、実際にプロトタイプを設置した部屋に住んでもらい、毎日アンケートを取らせてもらっています。
今後は会社のオフィシャルなプロジェクトとして取り組めるよう、動きが鈍化しないようにバランスをとりながら、リソースや場所が確保できる環境を整えていきたいですね。
PLTにおける「成功」とは、なんだと思いますか?
石川:新しい価値が生み出されるカルチャーが醸成されることです。そうすれば、パナソニックの社員が東京で何か新しいことをしたいとなったときに、「PLTに入居したい」と思ってもらえるはずですから。
篠原:私は、PLTの考え方や風土が会社全体の新しいスタンダードになることが理想です。「パナソニックでの働き方ってこうあるべきだよね」という新しい価値観が、PLTの活動や発信によって生まれ、会社全体の働き方や風土が変わっていけばと思います。
藤田:ラボとしては、ひとつのプロジェクトだけではなく、複数が成功するようになることが重要です。先進的かつ、連続性のある状態を生み出していけるように、継続的に働きかけていきたいですね。
今後は、どのようなコラボレーターやパートナーと一緒に共創したいですか?
藤田:さまざまな能力や知識を持つ方に、どんどん来てもらいたいですね。そうなることで、たくさんのアイデアが生まれると思いますから。
石川:僕の場合はデザイナーなど、近い職能の人が少ないので、そういった方にも来ていただいて、「あの商品のデザインいいよね」「このサービスはここが課題だよね」などとデザインに関わる深い話ができたら嬉しいです。
篠原:熱量のある人にぜひ来ていただきたいです。そして私自身も、オープンな姿勢で温かく人を迎え入れながら、もっと色々な人を巻き込んで刺激を与えあえる環境をつくっていきたいですね。
▼ メンバープロフィール
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藤田 真継
2003年入社。開発研究職として、監視カメラ向けの画像認識機能のアルゴリズム開発、LSI、組み込みソフト実装を担当。その後、「Vieurekaプロジェクト」の立ち上げから参画し、現在はサブプロジェクトリーダーとして事業開発を進めている。
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石川 雅文
2018年にパナソニックに中途入社。入社後は「HomeX」プロジェクトに参画し、プロダクトデザイン、UI/UXデザインを担当。現在はデザイナーとしてのバックグラウンドを活かし、ユーザー中心思考によるくらしの新価値探索や新規事業提案をしている。前職はTOTO株式会社のプロダクトデザイナー。
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篠原 由美子
2019年新卒入社。学生時代100BANCHにて活動し、デザインシンキングを用いたプロダクト「Fukidashi」の開発を行う。入社後は、研究開発部門でデータ分析技術を活用した新規アプリサービスの企画開発に従事。その後、事業部門と連携しながら新規サービスの創出を実施している。